日本語教育能力検定試験とは?難しい?試験日程や試験内容を解説【2024年最新】

2019年11月18日(月)
Category:コラム
目次
はじめに
外国人に日本語を教える日本語教師になるための公的な資格はありません。
しかし、文化庁が定めたガイドラインで「条件」が考えられています。
多くの日本語学校では、その条件を満たしていることを採用条件に掲げており、その条件というのが、一般に「日本語教師の資格」と言われているものです。
まずは日本語教師の資格について、簡単に説明したいと思います。
法務省は2016年7月に日本語教育機関の告示基準を出しました。
その告示により2017年8月以降、法務省が認定する学校(以降、法務省告示校と呼ぶ)で日本語教師として働くための条件が大きく変わりました。
そこで変わったことは、法務省告示校で働く日本語教師は以下の3つの条件のうち、いずれかを満たすことを採用条件としたことです。
1.文化庁に届出が受理された420単位時間以上の日本語教師養成講座を修了し、かつ学士の学位を有する
2.大学・大学院で日本語教育を専攻し、必要な単位を取得する
3.日本語教育能力検定試験に合格する
この3つの条件に関しては、「日本語教師になるための資格や条件をわかりやすく解説」で紹介していますので参考にして下さい。
ここでの大きな変更点は、1の条件に、「学士の学位をもっている(=4年制大学を卒業している)必要がある」ということがうたわれているという点です。
以前は、4年制大学を卒業していない人でも、実務経験次第で日本語教師になれましたが、この基準ができたことによって、420単位時間以上の日本語教師養成講座を終了しただけでは不十分ということになりました。
そのため、日本語教育能力検定試験に合格するという条件3が、日本語教師の資格を取得するために、多くの人に門戸の開かれた条件となっています。
また、条件1の資格を持っていたとしても、すぐに日本語教師として就職することが難しいケースもあり、条件1に加えてこの試験に合格していると就職に有利になるという点で非常に大事な試験となっています。
今回は、この日本語教育能力検定試験について、詳しい内容を紹介していきたいと思います。
日本語教育能力検定試験とは
日本語教育能力検定試験は、公益財団法人日本国際教育支援協会により実施されており、試験の目的は、
「日本語教員となるために学習している者,日本語教員として教育に携わっている者を対象として,日本語教育の実践につながる体系的な知識が基礎的な水準に達しているかどうか,状況に応じてそれらの知識を関連づけ多様な現場に対応する能力が基礎的な水準に達しているかどうかを検定すること」
引用:日本語教育能力検定試験実施要項
http://www.jees.or.jp/jltct/pdf/2019_jltct_guide.pdf
とされています。
つまり、日本語教育における専門的な知識と、現場に対応する能力が身についているのかを問う試験です。
日本語教育能力検定試験は、年齢・性別関係なく、誰でも受験することができます。
参考書やテキストは、書店等でも購入できるため、独学で勉強し、合格を目指すこともできますが、出題範囲が広く、専門的な内容が問われるため、独学での合格は容易ではありません。
試験は年に一度だけ行われます。
時期は例年10月と決まっていて、札幌・仙台・東京・名古屋・大阪・広島・福岡の全国7都市で開催されています。
受験料は10,800円。
出願するためには「日本語教育能力検定試験:出願書類」を公益財団法人日本国際教育支援協会に提出する必要があります。例年では6月の中旬あたりから願書の受け付けがはじまり、8月の上旬には〆切られますので、余裕をもって出願の準備をしましょう。
日本語教育能力検定試験の出題範囲と配点
「日本語教育能力検定試験」に合格するためには、やはり検定試験としての対策をしなければなりません。そのため、まずは出題範囲と配点について、しっかり把握しておくことからはじめましょう。
日本語教育能力検定試験で出題される範囲は、以下のとおりです。
1. 「社会・文化・地域」
2. 「言語と社会」
3. 「言語と心理」
4. 「言語と教育」
5. 「言語一般」
日本語の教え方だけでなく、日本語の歴史や学習活動の支援に必要な能力、異文化コミュニケーション能力などが幅広く出題されることから、過去問などを参考に出題の傾向対策を行う必要があります。
日本語教育能力検定試験は、試験Ⅰ・試験Ⅱ・試験Ⅲというカテゴリーで構成されていますので、それぞれについて説明します。
試験Ⅰ
試験Ⅰは、制限時間90分で配点が100点です。
測定内容は
原則として、出題範囲の区分ごとの設問により、日本語教育の実践に繋がる基礎的な知識を測定する。
引用:日本語教育能力検定試験実施要項
http://www.jees.or.jp/jltct/pdf/2019_jltct_guide.pdf
とされています。
「原則として日本語教育の実践に繋がる基礎的な知識」が出題されるため、参考書やテキスト、過去問などで勉強を進めていけば、比較的対策はしやすいカテゴリーと言えるでしょう。
ただ90分の間に大問15問、小問100問を回答する必要があるため、1問にかけることができる時間はおよそ54秒と決して長い時間ではありません。
そのため、限られた時間の中で正しい解答を導きだす必要があります。
試験Ⅱ
試験Ⅱは、制限時間30分で配点が40点になります。
音声を媒体にした出題形式で4つの選択肢の中から正しいものを選択して、マークシートで回答します。
公表されている、測定内容を確認すると
試験Iで求められる「基礎的な知識」および試験IIIで求められる「基礎的な問題解決能力」について,音声を媒体とした出題形式で測定する。
引用:日本語教育能力検定試験実施要項
http://www.jees.or.jp/jltct/pdf/2019_jltct_guide.pdf
とされています。
音声学や音韻学の分野でもあることから、苦手な方もいますが、現場で日本語学習者の発音指導ができるレベルになるためにも、日本語学習者の発話を聞いて、どこが問題かを聞き取れるかどうか等が問われます。
その為、日本語学習者から発せられた音を聞き取るための練習を、何度も繰り返し行う必要があります。
試験Ⅲ
試験Ⅲは、制限時間120分の配点が100点になります。
このカテゴリーでは
原則として出題範囲の区分横断的な設問により,熟練した日本語教員の有する現場対応能力につながる基礎的な問題解決能力を測定する
引用:日本語教育能力検定試験実施要項
http://www.jees.or.jp/jltct/pdf/2019_jltct_guide.pdf
とされています。
基礎的な問題解決能力が問われる問題が出題されるのが特徴で、試験範囲の区分横断的な設問により、熟練した日本語教員の有する現場対応能力に繋がります。マークシート方式による出題が80問あり、400字程度の記述式問題が1問あります。
日本語教育能力試験の合格点について
日本語教育能力検定試験の合格ラインは、正式に発表されていませんが、240点満点中165点前後が合格ラインと考えられています。
試験Ⅰ・試験Ⅱ・試験Ⅲそれぞれの配点がありますが、各区分の最低合格ラインなども開示されていないため、ある区分だけで高得点をとっても不合格になる可能性はあります。各区分ともに平均的に理解した上で、合格ラインに到達するように問題を解いていくことが重要です。
日本語教育能力検定試験の難易度について
日本語教育能力検定試験の難易度については、こちらのコラムよりご覧ください。
https://www.sanko-nihongo.com/column/jltct-level/
押さえておきたい勉強のポイント
「日本語教育能力検定試験」は、上でも述べたように、難易度が高い資格試験といえます。また、聴解問題や記述問題もあるので、勉強方法で悩むことも多い試験です。
ただ、2011年以降、出題傾向には、大きな変化はありませんので、過去問を参考に、後述する「日本語教育能力検定試験で問われる能力」のどの分野からどのような出題がされているかを確認していくことが合格への近道となります。
ここでは押さえておきたい勉強のポイントを紹介します。
日本語教育能力検定試験の勉強のポイント
ほとんどが選択問題
日本語教育能力検定試験を勉強する上で、まず、重要なポイントは、試験240点のうち220点がマークシート方式の問題であるということです。検定試験でよく問われる「検定キーワード」を広く理解しておくことで、消去法等で正答を選ぶことができます。検定試験の対策をするということは検定キーワードの理解を広げ、深めていくことだという意識で勉強することは合格を目指す上では重要なことです。
重要な考え方
日本語教育能力検定試験に合格するために心得ておくことがあります。
それは「満点を取る必要はない」ということです。
完璧を目指すあまり、一つの問題に時間をかけすぎてしまうと、他の問題に着手できなくなってしまう恐れがあります。
そのため、「8割程度の得点を目指そう」というレベルに目標を設置するといいでしょう。
ですが、難問や奇問については後から考えるとして、できる問題からどんどん解いていくことがより、少しでも点数を伸ばすことができます。
これは勉強においても同じです。出題範囲の中でも何度も出題されている領域やテーマは早めに対策を始めましょう。
たとえば、試験Ⅱの聴解問題については、苦手だからといって避けていると、点数を下げる大きな要因にもなります。逃げずに何度も聴解問題を解くことで、徐々に正解率を上げることができる分野なので、できるだけ早い段階でトレーニングを積む意識で学習するとあとが楽になります。
他にも前述の記述問題は、配点が大きいことから、模範解答を参考に点数が取れる構成を理解しておき、早めの段階で慣れておくことが大切です。
このように必ず出題されるとわかっている分野は避けずに優先的に勉強していってください。
日本語教師として教えている自分をイメージする!
次の勉強のポイントは、実際に自分が教室で教える視点を持って勉強することです。
自分が日本語教師になった場合に、どう教えていくのかイメージしながら、学習を進めていくことで、記憶の定着もよくなりますので、どのようにアウトプットしていくのかを考えながら学習すると効果的です。
今の日本語教育を捉える
そして最後のポイントは、日本語教育に関する最新の情報を仕入れておくことです。
日本語教育の現状を把握しておけば、日本語教育能力検定試験で出題される問題に対しても、自然と回答することができます。
日本語教師を目指すのであれば、最新の日本語教育の情報を取得できるように、アンテナを張っておくように心掛けていきましょう。
日本語教育能力検定試験で問われる能力
日本語教育能力検定試験は、日本語教師として基礎的な水準に達しているのかを問うことを目的として実施されています。
その中で問われる知識や能力は、5区分に分けられており、以下のような出題範囲になっています。ただし、毎回の試験ですべての範囲が出題されるわけではありません。
1.社会・文化・地域
区分 | 主要項目(アンダーラインは「基礎項目」なので重要です) |
---|---|
1.世界と日本 | (1)諸外国・地域と日本 |
(2)日本の社会と文化 | |
2.異文化接触 | (1)異文化適応・調整 |
(2)人口の移動(移民・難民政策を含む。) | |
(3)児童生徒の文化間移動 | |
3.日本語教育の歴史と現状 | (1)日本語教育史 |
(2)日本語教育と国語教育 | |
(3)言語政策 | |
(4)日本語の教育哲学 | |
(5)日本語及び日本語教育に関する試験 | |
(6)日本語教育事情:世界の各地域,日本の各地域 | |
4.日本語教員の資質・能力 |
引用:日本語教育能力検定試験実施要項
この区分では、国や地域社会が関係する国際社会の実情、国際化に対する国や地方自治体の政策、地域の人の意識などを考えるための視点と基礎知識を持っているかどうかが問われます。
2.言語と社会
区分 | 主要項目(アンダーラインは「基礎項目」なので重要です) |
---|---|
1.言語と社会の関係 | (1)社会文化能力 |
(2)言語接触・言語管理 | |
(3)言語政策 | |
(4)各国の教育制度・教育事情 | |
(5)社会言語学・言語社会学 | |
2.言語使用と社会 | (1)言語変種 |
(2)待遇・敬意表現 | |
(3)言語・非言語行動 | |
(4)コミュニケーション学 | |
3.異文化コミュニケーションと社会 | (1)言語・文化相対主義 |
(2)二言語併用主義(バイリンガリズム(政策)) | |
(3)多文化・多言語主義 | |
(4)アイデンティティ(自己確認,帰属意識) |
引用:日本語教育能力検定試験実施要項
この区分では、言語教育や言語習得・言語使用と社会との関係を考えるための視点と基礎知識を持っていることが問われます。
3.言語と心理
区分 | 主要項目(アンダーラインは「基礎項目」なので重要です) |
---|---|
1.言語理解の過程 | (1)予測・推測能力 |
(2)談話理解 | |
(3)記憶・視点 | |
(4)心理言語学・認知言語学 | |
2.言語習得・発達 | (1)習得過程(第一言語・第二言語) |
(2)中間言語 | |
(3)二言語併用主義(バイリンガリズム) | |
(4)ストラテジー(学習方略) | |
(5)学習者タイプ | |
3.異文化理解と心理 | (1)社会的技能・技術(スキル) |
(2)異文化受容・適応 | |
(3)日本語教育・学習の情意的側面 | |
(4)日本語教育と障害者教育 |
引用:日本語教育能力検定試験実施要項
この区分では、言語の学習や教育の場面で発生することについて、問題の理解や解決のための視点や基礎知識を持っていることが問われます。
4.言語と教育
主要項目
区分 | 主要項目(アンダーラインは「基礎項目」なので重要です) |
---|---|
1.言語教育法・実技(実習) | (1)実践的知識・能力 |
(2)コースデザイン(教育課程編成),カリキュラム編成 | |
(3)教授法 | |
(4)評価法 | |
(5)教育実技(実習) | |
(6)自己点検・授業分析能力 | |
(7)誤用分析 | |
(8)教材分析・開発 | |
(9)教室・言語環境の設定 | |
(10)目的・対象別日本語教育法 | |
2.異文化間教育・コミュニケーション教育 | (1)異文化間教育・多文化教育 |
(2)国際・比較教育 | |
(3)国際理解教育 | |
(4)コミュニケーション教育 | |
(5)異文化受容訓練 | |
(6)言語間対照 | |
(7)学習者の権利 | |
3.言語教育と情報 | (1)データ処理 |
(2)メディア/情報技術活用能力(リテラシー) | |
(3)学習支援・促進者(ファシリテータ)の養成 | |
(4)教材開発・選択 | |
(5)知的所有権問題 | |
(6)教育工学 |
引用:日本語教育能力検定試験実施要項
この区分では、学習活動を支援するための視点と基礎知識を持っていることが問われます。
5.言語一般
主要項目
区分 | 主要項目(アンダーラインは「基礎項目」なので重要です) |
---|---|
1.言語の構造一般 | (1)言語の類型 |
(2)世界の諸言語 | |
(3)一般言語学・日本語学・対照言語学 | |
(4)理論言語学・応用言語学 | |
2.日本語の構造 | (1)日本語の構造 |
(2)音声・音韻体系 | |
(3)形態・語彙体系 | |
(4)文法体系 | |
(5)意味体系 | |
(6)語用論的規範 | |
(7)文字と表記 | |
(8)日本語史 | |
3.コミュニケーション能力 | (1)受容・理解能力 |
(2)言語運用能力 | |
(3)社会文化能力 | |
(4)対人関係能力 | |
(5)異文化調整能力 |
引用:日本語教育能力検定試験実施要項
この区分では、教育や学習の対象となる日本語や言語一般についての知識や能力を有しているかどうかが問われます。
こうしてみると日本語教育能力検定試験の出題範囲の広さが分かります。
視点を変えると、この試験を合格した人が広い知識と能力を有していることの証明にもなるわけです。
それだけに、日本語教師の需要が伸びていく中で、この「資格」はとても強い武器になります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
文化庁が定めるガイドラインでは、「日本語教育能力検定試験」に合格することは、法務省告示校として認められた日本語教育機関で就業するための採用条件の一つとされています。
また、「日本語教育能力検定試験」に合格していれば、学歴を問われないため、誰でも資格取得を目指すことができます。
そういった意味でチャレンジする価値のある資格の一つとも言えるでしょう。
以上、この検定試験に合格するために重要なことをいくつか紹介しました。
上でも紹介したように、独学で合格を目指す人にとっても「日本語教育能力検定試験対策講座」という講座は、効率的に検定試験の対策を行うことができるので、受講の価値はあります。
いずれにしても、日本語教師になる上では、日本語教育能力検定試験はとても重要な位置づけになりますので、日本語教師を目指すのであればチャレンジすべき検定試験と言えます。
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