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コロナ禍におけるオンライン授業

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2021年7月26日(月)

Category:コラム

コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は、日本語教育の世界にも大きな影響を与えています。特に、日本語学校では、これまで対面授業が主流だったこともあり、当初は授業ができないという状況も見られました。

しかし、悪いことばかりではなく、思わぬ「副産物」も生まれました。その一つがオンライン授業の導入が進んだということでしょう。

今回は、日本語教育におけるオンライン授業について考えてみたいと思います。

オンライン授業の形態

 

一口に「オンライン授業」といっても、その方法や形態にはさまざまな種類があります。最初に、どのような種類があるか、それぞれの特徴も含めて確認しておきましょう。

 

1対1か、1対複数か

 

教師と学習者が1対1で行うマン・ツー・マン形式のものと、教師1人に対して複数の学習者が参加する形式のものの、大きく2つに分けられます。また、複数の学生がグループで行う形式もあります。

1対1の場合、学習者の学習目的やニーズにカスタマイズした内容を提供できる一方、教師との関わりが大きくなる分、双方の相性が合うか合わないかが課題になる場合もあります。

1対複数の場合は、さらに、教師からの一方向的な講義形式の場合と、双方向のやりとりがある形式があります。双方向でリアルタイム方式の場合は、あまりに人数が多いと、十分にやりとりができない可能性も出てくるので、適切な人数を見極める必要があるでしょう。

 

同期(リアルタイム)式か、非同期(オンデマンド)式か

 

 

これも大きく2つに分けられます。1つは「同期式」で、教師と学習者がリアルタイムでつながった状態で行う形式です。双方向のコミュニケーションが比較的、取りやすい反面、その時間帯にオンライン上にいなくてはならないという時間的な制約があります。

もう一つは、「非同期式」です。予め教師が作成した資料や授業の録画などを、学習者が自分の都合のよい時間にアクセスして学ぶオンデマンド式です。時間的な制約を受けにくいのは利点ですが、その場で疑問に思ったことをリアルタイムで質問することなどは難しいといえるでしょう。

また、予習は非同期式で行い、その後、同期式の授業でやりとりを行うという「同期・非同期」を組み合わせた形式もあります。

 

全員がオンラインか、対面とオンラインのハイブリッドか

 

感染拡大の初期は、教師と学習者の直接的な対面を回避する「全員オンライン」という形態が多くを占めました。しかし、感染対策が進んだところでは、一部の学習者は教師と同一空間で、一部の学習者はオンラインで、という「ハイブリッド方式」の形態も見られるようになっています。

日々の感染状況によって、フレキシブルな対応が可能である反面、授業を担当する教師からは、対面、オンライン、ハイブリッドの変更が頻繁にあり、対応に苦慮しているという声も聞こえてきます。

 

大きくは、この3つの分け方が考えられるでしょう。教師としては、学習者の学習環境、学習内容や学習目的によって、これらを組み合わせ、適切な形態を選んで提供することが必要です。教育機関によっては、方式が決められていることもあるので、その制約の中で、いかに効果的な方法で授業を行うことができるか、そのための知識やアイディア、技量が教師には求められるようになってきていると言えるでしょう。

 

日本語学校、就労者・ビジネスパーソンなど、導入の現状は?

 

さまざまな形態があるオンライン授業ですが、教育現場では、今、どのような形で実施されているところが多いのでしょうか。日本語学校、就労者やビジネスパーソン向けの研修など、現状を探ってみます。

 

日本語学校

 

複数の日本語学校で授業を担当している講師によると、国内にいる学生に対しては、学校によって、対面式に徐々に戻しているところ、対面式とオンラインのハイブリッド方式にしているところなど、対応はさまざまのようです。学生にしてみると、多少、体の具合が悪くても家にいながら授業に参加できるため、遅刻や欠席が減ったという良い効果が見られた学校もあると聞きます。

しかし、オンラインのほうが自宅にいながら授業が受けられるので楽でいい、このままオンラインでいい、という声が多いのかと思いきや、対面授業を望む声も予想以上に多く聞かれるそうです。講師としては、いかにして効果的な授業を実施できるか、試行錯誤が続いている状況だと言えるでしょう。

 

一方、入国制限がかかり、日本に留学予定だったのに入国できずに自国で待機している学習者も多く、そうした海外待機組に対してオンライン授業を提供している学校も多いようです。

自国にいながらにして日本語を学べるのは便利だと考える学生もいる傍ら、やはり早く日本に行って勉強したいという希望を口にする学生は多いといいます。時差があるのもものともせず、欠かさず授業に出席する学生も多いそうで、1日も早い入国制限の解除を望む声が、講師、学習者、双方から聞こえてくるのが現状のようです。

 

就労者・ビジネスパーソン向け

 

日本語学校に比べると、就労者やビジネスパーソン向けの研修やレッスンでは、コロナ禍以前から、オンライン授業の導入は進んでいたといえます。例えば、ビジネスパーソン向けにはスカイプなどを使ったマン・ツー・マン・レッスンを提供するフリーランス講師も多く見られました。

また、就労者向けには、自国での入職前研修にオンライン授業を活用しているケースも多く、そうした研修を専門に請け負う企業もあります。

2021年6月21日現在、就労者に対する入国制限も、特段の事情がない限り、解除されていないため、オンライン研修の必要性は、さらに高まっているといえるでしょう。

 

オンライン授業の今後の課題と解決策

 

オンライン授業は、コロナ禍においては感染拡大の心配がない、空間の制限を受けにくい、自分の都合に合った学習方法を選択しやすいなど、多くのメリットがあるといえるでしょう。しかし、その反面、課題がないわけではありません。どのような課題があり、解決する方法としては、どのようなことが考えられるのか、最後に見てみましょう。

 

日本語学校にとって

 

日本語学校の場合、基本的には対面授業が正規の授業と考えられている現状があります。そのため、オンライン授業は、暫定的な措置として卒業単位に認められてはいるものの、まだ対面授業ができない場合の緊急避難的な位置づけであるといえます。コロナウイルスの終息がなかなか見通せない状況では、今後は、この仕組み自体を変えていくことも必要となっていくでしょう。オンライン授業が正規のオプションとして認められていければ、学習者にとっては選択肢が広がり、学習機会の拡大ということにもつながります。

また、国内だけでなく、海外の学習者がアクセスしやすくなるという利点もあります。さらに、講師にとっても、さまざまな事情で外に出られない資格保有者が、家にいながら授業を担当する道も開けるでしょう。

 

フリーランス日本語教師にとって

 

特定の教育機関に所属しないフリーランス日本語教師にとっても、オンライン授業は、さまざまな学習者に教える可能性が広まったといえます。ただし、その分、参入する人も増えているので、より質の高いオンライン授業を提供するための工夫や知識、技術が必要になります。競争が激しくなるので、厳しいといえるかもしれません。

しかし、プラスに考えれば、自身のスキルアップの機会と捉えることもできます。今はまだ、オンライン授業の導入が広まり始めた段階で、皆が試行錯誤している状況です。先に飛び込むのは苦労も多いことが予想されますが、その分、得るものもあるでしょう。その経験や知見は、今後、自身の力になるとともに、蓄積されていけば、日本語教育全体の質の向上にも寄与することにつながると思われます。

 

学習者にとって

 

これまでは、多くの学習者は、決して安くはないお金を払って来日し、高い滞在費を負担しながら日本語を学んできました。その経験は、その人の人生にとって大きなプラスにもなりますが、一方で、金銭的な制約で、来日を諦めざるを得ない人もいます。

オンライン授業が導入されれば、こうした金銭的に日本に行って勉強することが難しい人にとっては、国にいながらにして日本語を学ぶ道が開けることになります。また、金銭的な条件が整っても入国制限によって来日できない人にとっても、学び続けることを可能にします。

ただし、日本語を学ぶというだけならよいのですが、現地で暮らしてこそ、経験できること、例えば、日本人と直接話したり生活習慣や文化を感じるといった経験が、どうしても不足してしまうという懸念はあります。こうした部分をどう補うかが、今後の課題としては挙げられるでしょう。

 

まとめ

オンライン授業のほうが効果的な内容もあれば、対面授業のほうが高い満足度を学習者に与えられる内容もあります。それぞれの特性を見極めながら、学習者にとって満足度の高いレッスンを提供できるかどうかが、今後の教師の腕の見せ所になっていくのではないでしょうか。

教師として、今、すぐできることとしては、オンライン授業に利用できそうな、さまざまなアプリやWEBサービスがあるので、それらをまずは知ろうとすることから始めてみることをオススメします。初めはうまくいかなくても、試してみることでわかってくることもありますし、恐れもなくなってくるものです。

参考コラム:日本語教師はオンラインのスキルが必要になる?

 

オンライン授業は今後、増えることはあっても減ることはないでしょう。今なら皆、試行錯誤の段階なので、それほどうまく取り扱えなかったとしても、恥じる必要もありません。ぜひ、トライしてみてください。

 

また、日本語教師養成講座の中には、カリキュラム内にパソコンを使用した授業教材の作り方や見せ方を扱う科目を取り入れている学校もあります。養成講座の受講をご検討中の方は、学校選びの際、「今後、日本語教師に求められるスキルが身につけられるか」という視点をもつことも大切です。

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