2021年度日本語教育能力検定試験 速報レポート その3

2021年12月24日(金)
Category:コラム
こんにちは。
三幸日本語教師養成カレッジで検定試験対策講座を担当している青山豊です。
今回は「日本語教育能力検定試験は変わったか?」(その3 記述問題編)、「2021年検定試験速報」の最終回です。
「反転授業」をテーマとして出題された試験Ⅲ問題17の記述問題について考えてみます。
一言で申しますと、「令和2(2020)年度の『3つのキーワード付き』タイプの出題ではありませんでした!」です。
▽昨年のコラムはこちら
https://www.sanko-nihongo.com/column/kentei-report2020-3/
それならまったく元にもどったのかと言うと、そうとも言えません。
言えるのは、問題がより具体的で真正性のある(=オーセンティックな、実際に起こり得る)ものになったということです。そのため、すでに日本語教育の現場を経験している受験生でも、「その経験の長さ」や「これまでどのレベルを指導してきたか」によって、難度が異なる問題だったということだと思います。
前置きが長くなりました。今年の記述問題について具体的に見ていきましょう。
大きなテーマは「反転授業」。
この反転授業というキーワードそのものは、令和元(2019)年度の試験Ⅰ問題7で登場しています。意味としては、「『従来の教室の中で行われていた教師による教室授業』と『練習問題、タスクなど宿題として課され、学習者自身によってなされる授業外での学習』の順番を入れ替えた(=反転させた)学習の形式」と考えてよいでしょう。
記述問題の中で与えられている課題は以下の通り。
1 あなたは、ある日本語教育機関の日本語教師である
2 上級文法クラスで、来年度から動画を用いた反転授業を取り入れることになった
3 反転授業の自宅学習(による知識伝達)のために、どのような動画を用意するか
4 教室での60分の授業時間の中で、自宅学習部分につながるどのような活動を展開するか
5 反転授業の利点を十分活かした計画を、400字程度で具体的に提案せよ
6 またその活動が上級文法クラスにおいてなぜ効果的だと考えられるのかについても書け
「ふぅ〜」と、試験会場で私も大きなため息をつきました。これがもし試験中ではなければ「面白い問題だなぁ。ネットや本でいろいろ調べながら考えてみよう!」と思えるところですが、あいにく試験の真っ最中。120分の制限時間の中で、80問のマークシートの問題に答え、なおかつこの記述問題に「400字程度で具体的に」答えなければならなかったのです(ちなみに私は、試験Ⅲの試験が始まると、試験問題を最初から最後まで「眺める」時間を作るようにしています)。
上の1〜6の「課題」をひとつひとつ見ていきます。
1 「あなたは日本語教師である」と決められています。「いや、私はまだ420時間の日本語教師養成講座を受講中で・・・」と思った方もいらっしゃるでしょう。しかしここではそういう受験生も「一人前のプロの日本語教師」として平等に扱われています。
2 「反転授業を取り入れることになった」と宣言されています。反転授業はコロナ禍のオンラインの時代には、とても重要な授業方法でもあり、「知りません」、「できません」とは言えません。この用語についての知識がなくても、問題文中にある「情報伝達」「教室での活動」という言葉と「反転」の文字通りの意味を合わせて考えれば理解が可能です。「反転授業という言葉を知らなかったので書けませんでした」という言い訳は封じられています。
3 最近急増中のYouTuberが受験生の中にいらしたら、その方にとってはとても有利な問題だったかもしれませんね。そう、反転授業のためには「動画」を準備しなければなりません。いわゆる「非同期」の動画を作成し、それを教室授業の前に学習者に見て来てもらうことを前提としているわけですね。非同期は同期とペアになるキーワード。同期が「リアルタイムでの配信によるリモート授業」であるのに対して、非同期は、リアルタイムではない、見る(受講する)時間の制限に幅のある「録画された学習材による授業」です。
4 3の「動画」を学習者が自宅で学習してきたことを前提に、教室で展開する60分の授業時間をどういった内容にするかを、これまた「具体的に」書くことが求められています。授業時間が60分と明確にされているのはありがたいですが、たいへんでもあります。なぜならば、採点者から「そんなに多くの内容が60分でできますか?」あるいは「そんなに少ない内容で60分持ちますか?」というツッコミが入る気がするからです。60分前後に収まる教室活動を描くのは簡単ではありません。
5 400字程度で具体的にというのはいつもの記述問題と同じですが「反転授業の利点を十分活かした計画」とたたみかけてこられてます。
6 問題文の中では一番最後に示された「タスク(=400字の取り扱うべき課題)」ですが、お気づきの通り、これ、すなわち「その活動が上級文法クラスにおいてなぜ効果的だと考えられるのか」をはじめに考えた上で3、4、5のことを考え、論じる必要があるでしょう。
以上、つらつらと書きましたが、これらは今だからできる分析です。試験会場では、誰の力も借りず、記述問題に立ち向かい、合格水準の答案を書かねばなりません。そのための準備としては、誠につきなみですが、過去の記述問題に、自ら取り組み、最初のうちは十分に時間をかけて、問題の中の課題を読み取り、それに答えるための知見を探し、蓄えなければなりません。
たいへんなことですが「あなたは日本語教師である」のですから、がんばりましょう!
本日、詳細が発表された2022年度の検定試験の準備を始める方にいささかなりともお役にたてばと存じます。
執筆:青山豊
(プロフィール)
日本語教師歴約30年。日本語学校、日本教師養成講座の現場で活躍。
2001年度~2020年度まで20年連続で日本語教育能力検定試験合格中。
“検定から学び続ける”をモットーに、現役日本語教師にも役立つ【知識】と【実践力】を融合させる検定試験対策講座を行っている。
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