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2020年度日本語教育能力検定試験 速報レポート その3

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2020年11月25日(水)

Category:コラム

 

こんにちは。

三幸日本語教師養成カレッジで検定試験対策講座を担当している青山豊です。

 

「2020年日本語教育能力検定試験速報」も今回が最終回となりました。

 

第3回目の今日は、「日本語教育能力検定試験は変わったか?」(その3 記述問題編)です。

 

1回目のコラムで、今年の検定試験で印象に残った問題として、試験Ⅲ、記述問題を挙げました。今年度の記述のテーマは『やさしい日本語』でした。

 

『やさしい日本語』が試験問題の中でなにかしら触れられることは予想していましたが、『やさしい日本語』について、400字で改めて論じることは非常に難しさを感じました。

 

また今年度は、問題文の中にキーワードが3つ与えられていて、「一つ以上を選んで」という指定があったことが新鮮で驚きました。

 

「その与えられた3つのキーワードを早く知りたい!」という方も多くいらっしゃることでしょう。

では、まずそのキーワードのご紹介から。

 

〈キーワード〉 複言語主義 言語権 規範主義

 

いかがですか?想像されていたものと同じですか?違いましたか?

皆さんはこれらのことば(のどれか)と「やさしい日本語」を、結びつけて論じることがおできになりますか。

 

今回の記述問題の概要は以下のとおりです。

問題17 【大意】

ここ数年「やさしい日本語」の考えが広まりつつあるが、こういった動きに対して「外国人が日本語を学ぶ能力を過小評価している」「やさしい日本語のせいで、正しい日本語を学ぶ機会が奪われている」などのネガティブな評価をくだす人もいる。日本語教育に携わるものとして、あなたはこういった考えについて、どう考えるか。次のキーワードの中から一つ以上を選び、その語とやさしい日本語との関係を明らかにしながら、あなたの考えを、400字程度で述べなさい。その際、あなたがそのキーワードをどのように理解しているかが分かるように書くこと。

 

〈キーワード〉 複言語主義 言語権 規範主義

 

いかがですか。

 

前述のとおり、キーワードは3つ与えられていてその中から最低一つ選べばよいとされています。また「そのキーワードをどのように理解しているかが分かるように書け」とありますから、3つの中から

 

1)その用語の意味を正しく理解しているという自信があり

かつ

2)「やさしい日本語」と結びつけて論じる自信のあるもの

を選んで論じればよい、ということです。

 

・・・と、あっさり申しましたが、この3つのキーワードの意味の正しい理解は決してやさしいものではありません。試験会場では、3つのうち辛うじて意味が分かるものを1つ見つけて、それを使って論じたという方も多くいらっしゃるはずです。

 

でも、せっかくですから、ここではキーワード一つひとつの意味を確認していきましょう。

 

【複言語主義】

一人の人の中には複数の言語能力があり、必要に応じて現実の生活場面で、そのいずれかの言語を用いて社会的な課題を解決しているという考え方。

また、その際の言語能力というのは、ネイティブスピーカー並である必要はなく、いろいろなレベルがあってよいとするもの。

 

【言語権】

自分の望む言語によって社会活動できる権利。言語についての人権

と考えられ、「母語を習得し使用する権利」と「滞在している国の言語を学習する権利」の両方がある。

 

【規範主義】

言語の使用において、その文法の正しさを重視し、できる限りそれに従うべきだとする立場

 

さて、ここまでで、論じる準備はかなり進みました。実際の解答の書き方としては、以下のような構成がわかりやすいのではないでしょうか。

 

1)問題文中にあるような、「やさしい日本語」を批判する人の指摘が的はずれなものであることを、理由を挙げて示す。

 

2)次に「やさしい日本語」の「意義」や「必要性」を、「複言語主義」(あるいは「言語権」)と結びつけながら論じる。その際それらの用語の内容を理解した上で使っていることを採点者に知らしめるためにも、そのことばの定義を短くでよいので書き込んでおく。(キーワードとして「規範主義」を選んだ場合は、学習者の学習中の言語に「規範主義」の「ものさし」をあてることの不当性を挙げ、その反対の立場である「やさしい日本語」の合理性を主張すればよいと思います)

 

いかがでしょうか。皆さんはこの新たな記述問題にどのように解答されましたか。

 

私自身も、試験後に落ち着いて考えながら、上記の考えをまとめましたが、実際の試験でこの記述にかけることのできる時間は長くて50分、短ければ20分前後でしょうか。

 

いや〜、なかなかの難問でしたね。

 

3回に渡ってお届けした2020年度日本語教育能力検定試験 速報レポートも今回が最終回です。またどこかで皆さんと検定試験について語り合えることを楽しみにしております!

 

 

執筆:青山豊

(プロフィール)

日本語教師歴約30年。日本語学校、日本教師養成講座の現場で活躍。

2001年度~2019年度まで19年連続で日本語教育能力検定試験合格中。

“検定から学び続ける”をモットーに、現役日本語教師にも役立つ【知識】と【実践力】を融合させる検定試験対策講座を行っている。

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