日本語の先生になろう。

日本語教師の国家資格化とは?

一覧に戻る

2021年5月31日(月)

Category:コラム

近年、日本で暮らす外国人の数は増え続け、彼らのバックグラウンド、来日・滞在目的なども多様化が進んでいます。そのような社会背景から、日本語教育の充実と、質の高い日本語教師の確保・養成が急務となり、2018年度から文化審議会国語分科会日本語教育小委員会において、日本語教師を国家資格化するための議論が始まりました。

今回は、その議論の過程を追いながら、現在の課題、将来的な見通しなどについてお伝えします。

 

これまでの議論では何が決まったのか?

 

2018年度から始まった日本語教師の国家資格化の議論は、2020年3月10日、「日本語教師の資格の在り方について(報告)」という報告書(以下、報告書)に取りまとめられました。

まずは、この報告書で提言された内容を確認してみましょう。

参考:「日本語教師の資格の在り方について(報告)」

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/hokoku/pdf/92083701_01.pdf

 

日本語教師の国家資格化の目的は?

 

はじめに、日本語教師を国家資格にする目的は何か、確認しておきましょう。報告書の中で、「日本語教師の資格制度創設の目的」として、次のように記されています。


日本語教師の質の向上及びその確保を図り、もって国内外の日本語教育を一層推進し、多様な文化を尊重した活力ある共生社会の実現、諸外国との交流の促進及び友好関係の維持発展に寄与すること


具体的には、日本語教師の質、量、多様性を確保するとともに、日本語教師の資質・能力を証明するために設けるものであるとされています。

また、報告書の中で、創設される国家資格は、名称を「公認日本語教師」とすること、名称独占の資格とすることなども提言されました。

 

報告書で提言された「資格要件」は?

 

次に、どのような要件を満たすと、国家資格が得られるのでしょうか。要件として示されたのは以下の3点でした。


①日本語教育能力を判定する試験に合格すること

②教育実習の履修・修了

③学士以上の学位

※ただし、年齢、国籍、母語は問わない


また、すでに法務省告示校で教員要件を満たして教えている人は、十分な移行期間を設けた上で、公認日本語教師として登録できるようにするのが適当だとされました。

 

「日本語教育の推進に関する法律(日本語教育推進法)」も追い風になるはずが……

 

国家資格制度創設の議論が重ねられている間、2019年6月には「日本語教育の推進に関する法律(日本語教育推進法)」が公布・施行され、日本に暮らす外国人への日本語教育は、国、自治体、事業主などの責務であることが義務付けられました。

この法律には、日本語教育の充実、質の向上を図ることが明記されたこともあり、法律施行により、日本語教師の国家資格制度創設に向けての動きは一気に加速するように思われました。

 

法制化へ向けての見直しと課題は?

 

報告書もまとまり、日本語教育推進法も施行されたことから、次のステップとして、資格制度の詳細を決めるために、2020年4月「日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議(以下、協力者会議)」が設置され、7月から議論が始まりました。

ところが、10月、国から「国家資格の創設という手段をとる必要性を法制的に説明することが難しい」という見解が示され、日本語教師の国家資格化の議論は見直しを迫られることになったのです。

 

法制化の壁

 

なぜ、国は「国家資格の創設の必要性を説明するのが難しい」という見解を示したのでしょうか。理由として、以下のような点が挙げられました。


・日本語教師の要件を強化するのであれば、既存の法務省告示校の教師要件を引き上げることで措置可能である。

・日本語教師の業の範囲が曖昧である。日本語教育機関の範囲と併せて検討したほうが、範囲を明確にしやすいのではないか。


報告書では、いわば日本語教育関係者が理想と考える日本語教育と日本語教師の姿が示されました。しかし、法制化するにあたっては、他の国家資格との整合性なども考えなくてはなりません。

とはいえ、国家資格化を諦めることは、これまで重ねてきた議論が無駄になり、引いては日本語教育を後退させることにもつながりかねません。

 

そこで、現在、協力者会議では、国家資格化するにあたっての課題をクリアすべく、議論が重ねられています。その中の1つに「日本語教育機関の類型化」の議論があります。

「類型化」とは、「業の範囲の明確化」を検討するためのものだと言えるでしょう。具体的には、日本語教育機関を大きく「留学」「就労」「生活」の3つに分け、それぞれの類型ごとに、どのような評価基準を設けて質の担保を図るのか、評価はどこが行うのか、などについて検討と整理が行われています。

 

資格取得要件の見直しも……

 

並行して、資格取得要件に関しても、協力者会議において、さらに詳細な議論が行われています。

主な論点としては、資格更新講習を必須とするかどうか、資格取得のための試験を一律に課すか、一部免除を認めるべきか、さらに、学士以上の学位を必須とするかどうか、などが話し合われています。

 

特に、報告書で「学士以上の学位を必須とする」とされた要件は、「日本語教師が必要とする幅広い教養と問題解決能力は必ずしも大学・大学院のみで培われるものではない」などの意見もあり、「要件から外してはどうか」という修正案が示されました。ただし、これも協力者会議の委員の間でも異論があり、最終的な結論は出ていない状況です。

 

日本語教師の国家資格化——今後の見通しと備えておくべきことは?

 

以上のように、日本語教師の国家資格は、現在、その創設を廻り、議論が続いている状況です。協力者会議では、資格創設までのロードマップ、資格取得の流れについても案が示され、議論が重ねられています。

最後に、それらを踏まえ、今後の見通しと、これから日本語教師を目指す方が備えておくべきことを見ておきましょう。

 

資格創設までのロードマップ

 

協力者会議は、2021年1月の会議で、資格創設に向けてのロードマップ案を示しました。それによると、2021年中は法案の検討を行い、22年に法案を国会に提出、成立した場合、23年に試験実施機関の選定がなされ、試行試験を実施した後、24年から全面施行とされています。

ただし、このロードマップには「※最短で資格を創設した場合」という注意書きが添えられています。

参考:日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議(第2回)-制度創設に向けてのロードマップ(案)

 

「国家資格取得のための新しい試験」の内容は?

 

ロードマップに示されたように、日本語教師が国家資格化されるのは、早くても3年後で、さらに遅くなる可能性もあります。気になるのは「国家資格取得のための新しい試験」ですが、これも、まだ詳細な内容は決まっていません。

しかし3月開催の協力者会議に提出された案では、日本語教育能力を判定する試験が2つ(筆記試験1、筆記試験2)と、指定の日本語教師養成機関における教育実習が課され、一定の資質・能力があると認められれば「公認日本語教師」として登録する、というスキームが示されています。

日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議(第4回)-公認日本語教師の資格のイメージ(案)

 

試験や研修の免除要件は?

 

筆記試験と教育実習については、これから目指す人は、原則として筆記試験2つ+教育実習修了が課されるとされています。ただし、大学の日本語養成コースおよび指定の養成機関で学んだ人は、一部の筆記試験と教育実習が免除される案が示されています。

 

一方、現職者の認定をどのように行うかについては、協力者会議の委員の間でも意見が割れています。例えば、「試験合格を必須とすべき」という委員の中には、「名称独占国家資格である他の資格(例:社会福祉士)を見ると試験は必須である」という理由や、「質の向上・担保をということであれば、現職者も含めた志望者全員が同一の試験を受験することによって資格の信頼性を確保できるのではないか」という理由を述べる人もいます。

一方で、「ベテラン現職者の中には、筆記試験が必須になるのならば受けないという選択をする人も出るのではないか、そうすると、日本語教師の数が保てなくなるのではないか」という懸念を示す委員もいます。

 

「新しい試験」の出題範囲は?

 

3月の協力者会議では、「新しい試験」の出題内容・範囲についての案も示されました。現行の日本語教育能力検定試験の出題範囲と比べてみると、5分野に分けられている点や、その分野名などに大きな変更はありません。

下位項目を細かく見ても、多少の文言の違いはあるものの、ほぼ現行試験の範囲が踏襲されると考えてよさそうです。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/nihongo_kyoin/pdf/92895901_02.pdf

 

また、現行の検定試験も、実施団体のサイトhttp://www.jees.or.jp/jltct/range.htmを見ると、


※令和4年度の試験より文化審議会国語分科会が取りまとめた「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)改定版」のp.43「日本語教師【養成】における教育内容」に準じた出題範囲へ移行する予定。


とあります。このことから、今後は「新しい試験」に準じたものになることが予想されます。

 

気になるのは、「新しい試験」になった場合、現職者も受験必須となるのか、ということでしょう。これは、今まさに議論が行われているところで、最終的にどうなるのかは現時点では不透明です。

しかし、国家資格化までには、まだまだ時間がかかることが予想されます。現行の検定試験に合格しておくべきかどうかと問われると、多くの養成講座担当者は「合格しておくべきだ」と答えるでしょう。それは、出題内容が現場で教えるために最低限、必要な知識であること、また、受験が必須となった場合でも、一度、学んでおくことは、有利にこそなれ、不利にはならないと考えられるからです。

 

日本語教師の国家資格化の議論は、これからも続きます。協力者会議は、一般の人も傍聴が可能ですので、その議論のなりゆきを見ておくことをお勧めします。

 

一覧に戻る