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2021年度日本語教育能力検定試験 速報レポート その2

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2021年11月9日(火)

Category:コラム

こんにちは。

三幸日本語教師養成カレッジで検定試験対策講座を担当している青山豊です。

 

前回に引き続き、日本語教育能力検定試験の受験レポートをお送りします。

前回のレポートで「次回はキーワードについて、より丁寧に見ていくことにしましょう」とお伝えしましたのでまずはそちらから。

 

試験会場でわたしが驚かされたキーワード

はじめに「(20年受験している)私が試験会場で驚いたキーワード」・・・つまり試験会場で初めて出会った(≒準備が間に合わなかった!)検定キーワードをご紹介します。

 

試験Ⅰ問題1 「名詞の場所性」(区分:言語一般)

例年、試験Ⅰの問題1は、「【 】内に示された観点から見て、他と性質の異なるもの」を選ぶ小問が15問出題されます。ときおり【 】の中に書かれた専門用語の意味するところが理解できず、困惑することもあります。今年はこの「観点」がそれでした。

「名詞」も「場所」も「〜性」もよく使う単語(あるいは形態素)ですが、これらが「の」でつなげられて「名詞の場所性」になり、一気に抽象度が上がったように感じられました。試験会場では、正しく意味を理解できないまま選択肢を選ばざるを得なかったという痛恨の1問。

 

試験Ⅰ問題3 B【品詞の性質】「動作名詞(動名詞)」(区分:言語一般)

「動名詞」は英語の授業ではおなじみですが、日本語教育能力検定試験で出会った記憶はありませんでした。選択肢を見ながら、「意識」「感動」「緊張」など「〜する」をつけると動詞になる名詞のことだ、と納得。「見慣れないからと言って、慌ててはいけない。前後をしっかり読めば意味が類推できる専門用語も多い」という「教訓」を再認識しました。

 

試験Ⅰ問題5 「対面聴解」(区分:言語と教育)

コロナ禍ですっかりおなじみになった(?!)「対面授業・非対面授業」という概念を思い出せばよかったのですが、試験会場で問題に向かっているときは、そんな余裕はありません!試験後、この用語について調べる中で、「ニュースやテレビドラマなどの非対面聴解とは異なり」という表現に出会い、「そうか、目の前に聞き手がいるのが対面聴解か!」と気づいた次第です。

 

試験Ⅰ問題8 「危機介入」(区分:言語と心理)

このキーワードの意味は、「危機介入=危機+介入」という「単純な計算」でよいのか?と悩んだ問題です。その疑問はまだ解けていません。引き続き検証が必要な問題です。

 

試験Ⅰ問題12 「席次計画・実体計画・普及計画(習得計画)」(区分:言語と社会)

「言語政策・計画」(Language Planning)の下位分類である3つの概念① Status Planning ②Corpus planning ③Acquisition Planningが問われました。この問題の「ややこしさ」の一つは、①には、試験で登場した「席次計画」の他に「地位計画」という訳語が、②には「実体計画」と「コーパス計画」が、③には試験問題にもある通り、「普及計画」と「習得計画」といった複数の訳語がある点です。対策として「英語で覚える」のも一法かと思いました。

 

試験Ⅰ問題14 「態度」(区分:社会・文化・地域)

この問題14は、文化庁が実施している日本語教育施策に関するもの。その中のこの小問は、2019年にまとめられた「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)改訂版」の中で、「日本語教育人材に求められる資質・能力」を構成する3つの要素として挙げられているものは何かを問う問題。それは「知識」と「技能」と「態度」。

 

以上が今年度の試験Ⅰで私が「おおっ!」と思ったキーワードです。しかし「びっくりキーワード」ばかりが試験に登場したわけではありません。「今年もでました。おなじみ検定キーワード」をほんの一部ご紹介します。

 

2021年度の試験に出題された「今年もでました。おなじみ検定キーワード」

(試験Ⅰ問題1〜問題3より)

1 接頭辞

2 時間の直示

3 自(動詞)他(動詞)の対応

4 タ形の意味

5 時間関係を表す従属節

6 調音点

7 アクセント

8 イントネーション

9 統語構造

10 プロミネンス

11 メタファー

12 ダイクシス

13 パラ言語情報

14 品詞

15 程度副詞

16 アスペクト

17 接続助詞

18 モダリティ

19 格助詞

20 名詞修飾節

21 連体詞

22 イ形容詞

23 名詞化

24 単文

25 複文

26 副詞節

27 引用節

28 条件節

29 内の関係

30 外の関係

 

いかがですか?「もうお腹いっぱい」かもしれませんね。

試験Ⅰ問題1から問題3の区分5「言語一般」から抜き出しただけで、30語になってしまいました。

 

これらのキーワードは、たいていの「日本語教育能力検定試験用語集」に、必ずあるものばかりです。「新しいキーワード」と「そのキーワードの背景となる学問領域の動向」には注意を払いながらも、基礎キーワードの理解をしっかりと深めていきましょう。

 

さて、前回のレポートで「試験Ⅰについては、大きくは、変わらなかった」と書いたその真意について、手短にお話しします。

前回「出題一覧」の表でもお示しした通り、問題の構成や配列、小問の数などはそれまでと変わっていません。しかし今回私が気づいたのは「問題文がさらに短くなったのでは?」ということです。

そのことによって、従来の「短い行数の問題本文の中に、5つの小問を埋め込む」という「出題の方針」が、更に徹底されたように感じられました。そして、そのため、本来ならもう少しゆったりとした行数の中で論じられるべきことが、とても「密」に語られ、受験生である我々は、何かとても息苦しい思いをしながら問題を解き進めなければならなくなったな、という印象を持ちました。

もちろん、これは、この検定試験を長く受け続けている私の「個人の感想」に過ぎません。今後、その印象が私だけのものなのかどうかも含め、考えたり調べたりしてみたいと思います。

 

次回は「反転授業」をテーマとして出題された試験Ⅲ問題17の記述問題について、皆さんと一緒に考えてみましょう。

 

執筆:青山豊

(プロフィール)

日本語教師歴約30年。日本語学校、日本教師養成講座の現場で活躍。

2001年度~2020年度まで20年連続で日本語教育能力検定試験合格中。

“検定から学び続ける”をモットーに、現役日本語教師にも役立つ【知識】と【実践力】を融合させる検定試験対策講座を行っている。

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