日本語の先生になろう。

異文化適応

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2020年3月5日(木)

Category:コラム

カルチャーショックとは?

今回のテーマは「異文化適応」です。皆さんも「カルチャーショック」という言葉を聞いたことがあるでしょう。人は、それまで自分が所属していなかった文化や環境に置かれたときに、違和感や不安、戸惑いなどを覚えることがあります。

 

例えば、身近な例でいうと、転職して違う会社に入ったとき、あるいは、引っ越しして新しい地域で暮らし始めたときなど、「あれ、これまでとなんか違う」と感じること、ありますよね?

国内に限らず、自分が育った国・地域から、留学や仕事のために異なる国に行き、なかなかなじめずに孤独感や不安、その国に対する不快感などを抱いた経験があるという方もいるかもしれません。

 

こうしたさまざまな違和感や居心地の悪さなどがストレスとして溜まると、精神的・身体的な不調や異常として現れる場合があります。それが「カルチャーショック」と呼ばれるものです。異文化適応や異文化コミュニケーションについて考える際、深く関連するのが、この「カルチャーショック」です。

 

カルチャーショックの要因となるものは?

日本語教育が必要な外国人労働者では、具体的には、どのようなことがカルチャーショックを引き起こす要因となるのでしょうか。

例えば、わかりやすいところでは、人々が話す言語、気温や天候などの風土、食べ物、治安状態などの違いが挙げられるでしょう。また、社会制度や習慣、しきたり、人間関係のあり方、コミュニケーションの取り方、文化的な価値観の相違など、明文化されておらず目に見えにくい事柄も要因として挙げられます。

さらに、こうした違いに適応したとしても、再び、自文化に戻ったときに適応できるかどうかという不安感や、自文化に対する嫌悪なども、カルチャーショックの要因になり得ると考えられています。

 

海外から日本にやってきて滞在している留学生も、それまで自分が育ち、慣れ親しんできた国や地域の文化から離れ、日本という異なる文化の中に置かれている状態にあります。そのため、個人差はあるものの、何らかのカルチャーショックを受けているといえるでしょう。

 

一方、教師の側も、海外で教える場合はもちろん、多様な文化背景を持つ学習者が集まる国内の日本語教育の現場で、学習者の思わぬ反応に違和感や戸惑いを覚えるというケースがあります。カルチャーショックは、在日留学生だけの問題ではなく、日本語教師自身にも無関係とはいえない問題なのです。

 

異文化適応の一般的なプロセスを示す「Uカーブ」

ところで、異文化の中に身を置くことになったとき、人はどのようなプロセスを経て適応していくのでしょうか。心理学の分野では、異文化適応のプロセスについて、一般に「Uカーブ(図1 Uカーブ、Wカーブ参照)」を描くという説明がなされています。

その適応段階は大きく4つに分けられます。最初は、新しい文化の中に入った直後で、気分が高揚している「ハネムーン期」です。異文化に魅了され、見るもの、聞くものがすべて素晴らしくバラ色に見える時期といえます。

次に新しい環境に慣れてくると徐々に現実問題に直面するとともに文化的な衝突を感じることが増え、やがて異文化に対する敵対心や攻撃的な気持ちを抱くようになります。この時期がUの字の底にあたる部分で「ショック期(不適応期)」です。カルチャーショックはこの時期と重なります。

3つ目の段階が、ショック期を乗り越えて新しい文化、異文化に慣れてくる「回復期」、そして最後が現地の文化や環境を受け入れて順応する「適応期」です。

さらに、しばらく異文化に身を置いた後、自国に戻ったときに、離れていた自国の文化に対して違和感を覚えることがあります。これを「リエントリーショック」といい、Uカーブのプロセスの後に、自文化に対しても同じようにUカーブのプロセスを経ることがあります。

「U」の後に「U」が来る形を「W」に見立て、この適応曲線を「Wカーブ(図1 Uカーブ、Wカーブ参照)」といいます。

 

異文化受容の4タイプ——「統合」「同化」「分離」「周辺化」

異文化適応のプロセスに加えて、異文化と接したときに、どの程度、異文化を取り入れて適応するのか、その受容態度にもタイプがあることが示されています。具体的には、心理学者・ベリーが「統合」「同化」「分離」「周辺化」という4つに分類して提示しました。

 

「統合」は、自分の文化を保持しながら新しい文化を取り入れていく態度、「同化」は、自分の文化の保持をせずに新しい文化に適応していく態度、「分離」は自分の文化を維持し新しい文化との関わりを避ける態度、「周辺化」は自分の文化の保持もせず新しい文化への適応にも無関心である態度であるとされています。留学生の文化受容に関する調査・研究などから、もっとも安定して異文化適応がなされるのは「統合」的態度であることが示唆されています。

 

ちなみに、このベリーによる分類は、日本語教育能力検定試験でも頻出の項目で、平成24年度、同27年度に出題されています。

 

日本は典型的な「高コンテクスト文化」社会

さて、日本の文化に入ったときに、具体的にはどんなことが「異文化適応」の問題になりやすいのでしょうか。よくいわれるのは「日本は高コンテクスト文化社会であるため、低コンテクスト文化社会からやってきた外国人は、コミュニケーションの取り方に戸惑いを覚える」というもの。

 

「高コンテクスト文化」とは、わかりやすい言葉でいうと、ある社会の構成員が、ある場面で何かをしたときに、ほかの多くの構成員が「空気を読んで」対応することが可能な文化の社会。その反対に、その都度、自分の行動の意味や意図を言葉で説明・主張しなくてはならないのが「低コンテクスト文化」な社会です。

 

日本は典型的な「高コンテクスト文化社会」であり、いちいち言葉で説明しなくても「察する」ことで意図を理解して対応できることが評価される社会だといえます。低コンテクスト文化の社会からやってきた人が戸惑うのは無理もありません。

 

異文化適応力を高めるために、知っておくことの大切さ

日本語教師は、異文化接触の最前線にいる職業です。ここまでに紹介したことは、検定試験に頻出の事項であると同時に、日本語教育の現場で学習者に対応するときにも、心得ておきたい知識です。また、自身の異文化適応力、異文化理解力を高めるためにも必要な知識であるともいえるでしょう。

 

検定試験で学ぶ知識は、決して「机上だけの論理」ではなく、実際に現場で役立つもの。「我がこと」として、しっかり身につけておきたいものですね。

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