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介護の日本語について

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2021年2月3日(水)

Category:コラム

日本の高齢者率が増加する中で、介護現場で働く外国人の活躍が期待されています。

一方で言葉や文化の違いによるコミュニケーションの取り方が大きな課題となっています。

そこで今回は、日本の介護の状況と、介護の現場で生かせる日本語の知識とはどのようなものなのか、ということについて取り上げたいと思います。

介護の現場で日本語教育が必要な理由

なぜ介護の現場で日本語教育が必要なのか、ということについて考える前に、まずは日本の介護の現状について国が公表している資料をもとに見ていきたいと思います。

介護現場の人手不足の問題

介護の現場で日本語教育が必要な最も大きな理由は、人手不足が深刻化しているという点です。

日本の高齢化率は2020年9月時点で28.7%となりました。世界の高齢化ランキングをみても、日本がトップになっています。

さらに2025年には、約800万人とされる団塊世代が75歳以上の後期高齢者になることから、高齢化率が30%に達すると予測されています。

出典 総務省 統計局 統計トピックス No.126 統計からみた我が国の高齢者

高齢者の比率が高まれば、高齢者を介護する人材も増やす必要がありますが、現実的には厳しい状況です。

厚生労働省では、2025年度末までに約245万人の介護人材が必要になると予測しています。

加えて、2016年度の約190万人を基準とした場合、2020年度末までに約26万人、2025年度末までに約55万人が不足する見通しとなっていて、この不足を補うためには、年間6万人程度の介護人材をあらたに確保していく必要があるとしています。

不足する介護人材を確保するための対策として、国は介護職員の処遇改善、多様な人材の確保・育成、離職防止・定着促進・生産性向上、介護職の魅力向上に加えて、外国人材の受入環境整備など総合的な介護人材確保対策に取り組むことを打ち出しています。

介護人材の必要数

出典 厚生労働省 別紙1 介護人材確保に向けた取り組み

外国人介護士の制度とは

日本の介護人材不足解消の対策として、外国人介護士の受け入れが進んでいます。

現在日本には、外国人が介護現場で働くためには、受け入れのプロセスや在留資格の違いなどによって、4つの制度があります。

EPA(経済連携協定)にもとづく受け入れ

EPAとは、Economic Partnership Agreementの略で、日本語では経済連携協定と言います。

協定を結んだ国同士が貿易の自由化に加えて人の交流も含めた経済取引を円滑化し、経済活動の連携を強化するための条約です。

介護分野では、2008年から介護福祉士候補者の受け入れが行われていて、現在はインドネシア、フィリピン、ベトナムの3か国から介護福祉士候補者が入国しています。

EPA介護福祉士候補者は、日本語能力をはじめとするそれぞれの国の候補者条件を満たした人が入国し、候補生として受け入れ機関で最長4年間研修を受けながら就労し、国家試験の合格を目指します。

国家試験に合格すると、正式に介護福祉士として日本で就労できますが、合格できない場合は帰国することになります。

在留資格の「介護」(介護ビザ)

在留資格の「介護」とは、介護職で日本に在留できる就労ビザのことで、介護ビザとも呼ばれています。

介護現場の人材不足解消を目的に、2017年9月から就労ビザとしての介護ビザでの在留資格が認められました。

介護ビザを取得するには、介護福祉士の資格を取得していることが前提となっています。

日本で介護職の就労を目指す人が介護ビザを取得するには、まず外国人留学生として入国し、介護福祉士養成機関で2年以上学習して介護に関する知識や技術を習得して介護福祉士の資格を取得します。

介護福祉士の資格を取得後に介護施設への採用が決まれば、留学ビザから介護ビザへ変更申請をすることで介護ビザの取得が可能になります。

これまでは介護福祉士養成施設を卒業すれば、介護福祉士の資格が取得できました。

しかし、介護人材の質の向上を目的とした制度の見直しが行われ、2022年度以降は介護福祉士養成機関を卒業した場合でも、国家試験に合格しないと介護福祉士の資格が取得できなくなります

出典 出入国在留管理庁 平成28年入管法改正について

外国人技能実習「介護」

2017年から介護分野での外国人技能実習制度の受け入れがはじまっています。

外国人技能実習制度とは、開発途上の国や地域へ日本の職業の技能や技術、知識を移転して経済発展を支援することを目的とした制度です。

技能実習の期間は最長5年で、実習計画にもとづき技能実習生に対する技能習得が行われます。

技能実習生は、入国前に介護施設などでの機能訓練や実務経験など、一定の条件を満たす必要があります。

これに加えて日本語能力については、入国の時点で日本語能力試験のN4認定以上(基本的な日本語を理解することができるレベル)が必要となっており、実習中も日本語の継続した学習が求められます。

参考 厚生労働省 外国人技能実習制度への介護職種の追加について

特定技能「介護」

介護分野で外国人が技能実習や就労をするためには、ここまでに紹介した3つの在留資格がありました。

これに加えて2019年に加わった在留資格が特定技能「介護」です。

一定の技能と日本語能力の基準を満たした人が特定技能としての在留資格を取得できます。

介護分野で特定技能の資格を取得するためには、「介護技能評価試験」に合格することに加えて、 「国際交流基金日本語基礎テスト」および「介護日本語評価試験」に合格することが条件となっています。

特定技能の新設による法改正によって、これまでの在留資格からの移行もできるようになりました。

介護分野の人手不足解消のために、国は外国人介護士の受け入れ制度を改正、拡充して対策を進めています。

外国人介護人材受け入れの仕組み

出典 厚生労働省 介護分野における特定技能外国人の受入れについて

一方で、介護士の質を保つために資格制度をより厳しくする動きも進んでいます。

特にコミュニケーションをうまく取り、業務を円滑に進めるためには、日本語能力が必要です。

介護分野での特定技能の要件の中で日本語に関する「日本語能力試験」に加えて「国際交流基金日本語基礎テスト」や「介護日本語評価試験」といった複数の試験が設定されていることからも、介護現場で戦力となるには、介護技能とあわせて日本語能力が重視されていることが分かります。

外国人介護士が介護の場面で必要な日本語をどのようにして習得するのか、というのが今後の重要な課題の一つとなるでしょう。

介護の日本語とは?

介護の現場で使われる日本語とはどのようなものでしょうか。

ここからは介護の日本語について調べてみたいと思います。

介護の日本語と日常で使う日本語とのちがいは?

介護分野で求められる日本語能力の目安としては、N4認定以上とされています。

日本語能力のN4認定の目安としては、基本的な語彙(ごい:言葉の集まり)や漢字を使って書かれた身近な文章を読んで理解できる、ややゆっくりと話す会話の内容が理解できるなど基本的な日本語を理解できるレベルとされています。

しかしながら介護の現場では、要介護者の人たちやその人の家族、職場の同僚などさまざまな人たちとコミュニケーションをとる必要があるため、求められる日本語能力も、専門用語とあわせて実践的な日本語能力が求められます

たとえば、介護施設では職員同士の業務の引きつぎや申し送りをすることがありますが、言い回しの難しい表現が使用されたり、専門用語が多用されたりして、外国人には理解が難しいこともあります。

話すスピードが速かったり、一つの文が長く、複数の内容や指示が含まれていたりする会話も、理解しにくい日本語です。

また、相手の顔が見えない電話での業務連絡のやりとりなども、外国人にとってはおおきなハードルになります。

介護で使う日本語

介護の現場では、介護に関連する専門的な単語や名称を使います。

たとえば、要介護者の体調を確認するときには、吐き気、たん、ねつ、せき、いたみ、かゆみ、体温、脈拍、呼吸、測定、体調、表情、やけど、骨折、転倒といった言葉を日常的に使います。

また、体を移動させるときには、あおむけ、うつぶせ、よこむき、体位、重心、座位、立位、端座位、患側、健側、まひといった言葉を使用します。

これらの言葉をつかって、介護の場面に応じた声かけや応対も行います。
例えば、このような声かけや応対があります。

    • ・これから体温を測りますがよろしいですか。
  • ・体温は36度5分です。ご気分はいかがですか。
  • ・体の向きをよこむきにかえましょうか。
  • ・まくらを少し動かしますね。手を組めますか。

このほかにも、要介護者の理解度に合わせた表現や言葉を使って、日常的に声かけや会話をする必要があるため、外国人に対する日本語教育は、より専門的で実践的な内容が求められます。

介護分野の日本語教育の需要は?

介護分野では、より専門的で実践的な日本語教育が求められることから、実習生や候補生に対する日本語教育の需要が高まっています。

EPAでの外国人候補者に対する日本語教育

独立行政法人国際交流基金では、EPA(経済連携協定)によって日本にやってくる候補者のための日本語予備教育に携わる日本語教師の派遣を行っています。

参考 独立行政法人国際交流基金 EPA(経済連携協定)日本語予備教育事業

EPA(経済連携協定)日本語予備教育事業とは、EPA(経済連携協定)で日本に入国を希望するインドネシアとフィリピンの看護師、介護福祉士候補者を対象に、自国で6か月間実施する初級から中級程度の日本語教育です。

担当する日本語教師は、現地で初級、中級日本語教育のほか、日本での生活に必要な社会文化理解の授業や、クラスを担当して学習者の自律学習支援を行います。
(2020年12月時点で、2021年度派遣の募集開始時期は未定となっています)

技能実習生に対する日本語教育

技能実習生は、現地で一定の日本語を学習してから日本に入国しますが、介護分野の場合、介護の日本語も習得する必要があるため、外国人技能実習生受入事業の認可を得た事業協同組合が主宰する講習会・勉強会などで日本語の勉強を継続しながら技能実習を行っています。

そのため、技能実習生に日本語を教える日本語教師のニーズが年々高まってきており、介護現場で介護に特化した日本語を教える日本語教師の求人も目立ってきました。

介護現場で働く外国人介護士に対応するために、日本語教師養成講座を受講する人も多くなってきています。

まとめ

日本の高齢化が進む中で、介護人材の不足の解消が重要な課題になっています。

介護人材を確保するための対策のひとつとして、国は、外国人介護人材の受け入れを強化する方針を打ち出しています。

これまでのEPA(経済連携協定)による介護福祉士候補者の受け入れに加えて、介護ビザや、介護分野での技能実習生の受け入れのほか、特定技能の介護での在留資格が加わり、外国人介護人材の受け入れと育成の強化が進められています。

一方で言葉や文化の違いによるコミュニケーションの取り方が大きな課題となっています。

特に介護の現場では、専門用語の理解や介護の場面に応じた声かけや応対が必要なことから、介護の現場で日本語を教える日本語教育の需要も高まっており、そのような求人情報も目立ってきました。

外国人介護士に日本語を教えるニーズは今後も高まってくると考えられます。

介護の日本語と日本語教育の知識は、介護分野でより重要な要素となるでしょう。

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