日本語教師の資質と能力
2019年12月27日(金)
Category:コラム
日本語教師という職業があることを知り、日本語教育に携わってみたいと思った人がいたとします。その方の胸によぎるのはおそらく、「私は日本語教師という職業に向いているのだろうか」、「日本語教師になるための資質は私に備わっているのだろうか」、「日本語教師を続けていくための能力をどこで身につければいいのだろうか」といった思いではないでしょうか。
今回のコラムでは「日本語教師の資質と能力」というテーマを取り上げ、ご一緒に考えていきましょう。
現役教師が考える日本語教師の資質と能力
私は、現在まで20年近く街場の日本語学校で日本語を教えてきた人間です。その私がもし、これから日本語教師になろうとしている方から、「日本語教師に必要なものは何ですか」という質問をされたら、どう答えるかを考えてみました。以下思いつくままに箇条書きにしてみます。
・日本語を一つの外国語として捉え、客観的に分析する能力
・目の前の学習者の興味や関心にあわせて情報や知識を提供できる力
・教師のいない状況になっても学び続けるためのツールを提供すること
・学習者にオープンで、公平な態度で接すること
・ユーモアのセンス
まだまだありそうですが、このぐらいにしておきましょう。
「この中で一番大切な資質や能力は何ですか」と問われるかもしれませんね。む、む、一つに絞るのは難しいです。
水谷修先生の描いた資質と能力
私の個人的な見解では限界があります。そんなとき思い出したのが、元国立国語研究所長・元日本語教育学会会長でいらした水谷修先生が『新版日本語教育事典』(大修館書店・2005年)に寄せられた論考でした。
「日本語教師の資質にはすべての教師に共通に期待される資質と日本語教師に限って期待される資質の2つの面が存在する。教師には己がもっている知識や技能を相手に与えるという役割もあるが、それ以上に学習者が教師のもっている知識や技能を乗り越えていってくれることを願う姿勢がなければならない。」という書き出しでこの事典の「■教師の資質」の項目は始まります。
その後も、「学習者を大切にしたいという姿勢は教師の資質の基盤である」という言葉や「また学習者に的確な指示が与えられるなどの指導能力に秀でていることや学習者が考えていることをすみやかに察知できる洞察力などは教育者である限りは何を教えるにしても欠くことのできない能力である。」というフレーズが続きます。
そして、「日本語について教師がもたなければならない知識や能力は、日本語そのものの構造や決まりに限られるのではなく、日本語によって支えられているすべての日本の文化や社会的事実にも及ぶものであることである。それは学習者の学習目的を支えるために不可欠だからであり、教師の質を左右する重要な要件ともなる。」・・・現役の日本語教師にとっても大切なメッセージです。
今、求められている日本語教師の資質と能力
ここで少し視点を変えて、文化審議会が取りまとめた「『日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)』」(平成30年3月2日)で挙げられている「資質・能力」について見てみましょう。
1.日本語教育人材に共通して求められる基本的な資質・能力
(1)日本語を正確に理解し的確に運用できる能力を持っていること。
(2)多様な言語・文化・社会的背景を持つ学習者と接する上で,文化的多様性を理解し尊重する態度を持っていること。
(3)コミュニケーションを通じてコミュニケーションを学ぶという日本語教育の特性を理解していること。
いかがですか? 引用しながら、私自身にこれらのものがあるかどうかを内省しています。
そのあと、さらに「2.専門家としての日本語教師に求められる資質・能力」が続き、そこには
(1)言語教育者として必要とされる学習者に対する実践的なコミュニケーション能力を有していること。
(2)日本語だけでなく多様な言語や文化に対して,深い関心と鋭い感覚を有していること。
(3)国際的な活動を行う教育者として,グローバルな視野を持ち,豊かな教養と人間性を備えていること。
(4)日本語教育に関する専門性とその社会的意義についての自覚と情熱を有し,常に学び続ける態度を有していること。
(5)日本語教育を通した人間の成長と発達に対する深い理解と関心を有していること。
と書かれています。
いかがでしょうか。「ハードル」をあげてしまったでしょうか?
「ロールモデル」に出会える場としての日本語教師養成講座
さて、ここまで「日本語教師の資質と能力」について考えてきました。「こんなたいへんなことをどこで身につければいいのか」と悩まれた方もいるかもしれませんね。
そのひとつの解決策が、「日本語教育の先輩たちがたくさんいる場所」に自分を投げ込んでみて、彼らから「日本語教師の資質と能力」を学ぶという方法です。
そういった場所のひとつが「日本語教師養成機関」です。そこでは日々外国人日本語学習者を指導している様々な「資質と能力」を持った日本語教師が活躍しています。また、様々な教育現場で日本語教師として活躍できる日本語教師を養成する意欲に満ちた、自身が様々な日本語教育の現場を経験してきた日本語教師養成講座講師がいます。
「資質と能力」は、今までみてきたように「これとこれ」と言えるようなものではありません。社会で求められている「資質と能力」について興味や関心を持ちながら、時には自分にそれらが備わっているかどうかを振り返り、いずれは私が初めに書いたように「これが私の考える『資質と能力』です」と言えるようになれば良いのではないでしょうか。
そのスタートを日本語教師養成講座から始めてみませんか。
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